堅物すぎるホテル支配人が心を打つ音楽を奏でる少女の虜となるまで

さまざま人が交錯するホテルは、そこに集った人の分だけ苦悩や喜びがある。しかし、通常の客はそれらを抱えたまま通り過ぎていくだけだ。「HOTEL.」は、何の変哲もないホテルを舞台に、音楽を通してつながっていく男女の愛の物語。人を魅了して止まない音楽を奏でる少女の登場により、生真面目なホテルの副支配人が変わっていく。

主人公の「荒城啓介」は、ホテル「プリメーロ」で副支配人として働く男性。ホテルの運営・管理を任される身であるが故に、定められた規律を非常に重視し、マニュアル主義を徹底的に貫く。日々を自動化し、機械のように淡々とこなしていく姿は、ほかの従業員から畏怖の対象に見られることも。だが堅物すぎるが故に会話がちぐはぐな時もあり、天然ボケかと思うほど笑いを誘うときもある。ちなみに家族構成は、猫一匹。物語の鍵を握る少女の名は、「サラ・コルトレーン」。さまざまな地を旅し、そして各地で演奏をしてきたギタリストだ。求められずとも彼女はギターを弾き、人を魅了して止まない音楽を創り出していく。しかし、サラは素性が不明の少女であり、どういう経験を経てきたのか、感情が希薄なため想像すらできない。彼女がホテル・プリメーロを訪れるところから、物語は始まるのだ。「世界は今日も、回りだす」。決して満ち足りている訳ではないが、物足りないわけではない。そんな優しく緩慢な世界に、ひっそりと建つ一軒のホテル「プリメーロ」。「いらっしゃいませ」。入り口をくぐると、外が冬だということを忘れてしまうくらい暖かい。だが羽織っている外套を脱ぐほどではなく、心地よい暖かさが包んでくれる。流れ落ちる水の音に耳をすましてみると、微かに人々が談笑する声。ほどよく流れる水の音が人の声をかき混ぜ、落ち着いたハーモニーとなっている。「ようこそ、ホテル・プリメーロへ」。啓介は、無表情にサラを出迎えた。少しトーンの低い、やや固めの声に、そしてその表情に……何かを想う。そう、それはいつのことだったろうか、 ──もはや何も、わからない。「私は、貴方のことを……」。新たな少女を迎え入れ、今日もゆっくり回りだす。不思議も、奇跡も、慈悲も無く。 ホテルに住まう、全てを乗せて。世界は今日も、回りだす。

HOTEL. 初回版

2011年12月22日 10時57分