小さなかわいい異能力者達の千年の戦いを描く珠玉の物語

簡潔に説明しろと言われれば困惑してしまうほどに入り組んだ、異能力者たちの暗闘を描いた4章からなる物語が「うたてめぐり」。狩る者と狩られる者という宿命を持つ、こんな娘がと驚くほどにかわいい女の子たちが、それぞれの思惑や理念をかけて戦う姿に引き込まれていく。

うたてめぐり千年以上前に新天地を求め、異世界(レイアルド)から渡ってきた人々がいる。生まれながらに「異能」と呼ばれる能力を持つ以外に、その生態や容姿が人間と全く変わらない異人たちは、人間社会に溶け込み、ときに混血しながら生きてきた。自分と違った者を排除しようとするのが人間の本能だとすれば、異人たちの持つ能力を忌み嫌い、人類に仇なす者と考える人々が登場する。彼らは米国に本拠を置く「オルガ」という組織を作り上げた。うたてめぐりこれとは別に日本にも「神無城」という一族が異人を狩るという宿命を負い続けてきた。壮大な物語は、宵葉学園という幼稚部から大学院まで約1万人が集う総合学園で始まる。主人公は生まれも育ちもごく普通の青年、日高皐月。眼を合わせることで他者の能力を写しとる「転眼」という能力を持つ異能者である。
うたてめぐりうたてめぐり

■狩る者と狩られる者との運命的な出会いによって物語は回りだす
主人公の幼馴染である織姫恋花は、異人と人間のハーフであるが、特に自身の異能を意識はしていなかった。日高皐月に淡い恋心を抱きながらも幼馴染という関係の居心地のよさに甘えてぬる~い学校生活を送っていたと言える。アメリカからやってきた留学生、リベカ・アルベルトとの邂逅が彼女の人生を大きく変えていく。快活で物怖じしない性格のリベカはクラスに溶け込み、皐月や恋花とも仲良くやっていけるように見えた。ある日、恋花はリベカから「大切な話がある」と、突然の呼び出しを受ける。放課後の屋上に向かった恋花を待っていたのは、ハンドガンを片手に冷たい視線を向けるリベカであった。リベカはオルガによって送り込まれた暗殺者なのであった。ハンドガンから射出された弾丸は恋花の胸を胸を貫き、鮮血が舞う。暗殺は成功した……かに見えたが、翌日の教室には何事もなかったかのように恋花が姿が姿を現す。かつて恋花自身が封印した忌わしい記憶と共に、異能の力に目覚めたもう一人の"彼女"が目を覚ましていた。人智を超えた力を身に付けた恋花は何を思い、何を成すのか……。


異能狩りを使命とする一族の巫女見習い神無城琴子は幼いころに両親を亡くし、実の兄でもある神無城清十郎から異人と戦うすべを学んできた。一族に伝わる異能殺しの魔剣「覇雲(はずく)」の使い手となった彼女に与えられた任務は、宵葉学園に潜伏している鍵姫とその仲間を見つけ出し、抹殺することだった。鍵姫とは最古より人類に仇なす異人の頭目として君臨し続けてきた異能者。肉体が滅んでも何度でも蘇る転生の力を有し、強力な異能を操る同志たちを集め「ある目的」のために社会の裏側で暗躍し続けてきた。琴子は宵葉学園の学生として振舞いながら、夜間の校舎に出没する黒い魔物との戦いに明け暮れていた。戦いの中で異人にも人間と同じ感情、苦しみや悲しみがあることを知り、彼らを区別なく根絶しようとする一族の在り方に疑念を抱くようになっていく。

■物語のピースはそろい、断章へとストーリーは帰結していく
日高皐月が宵葉学園に入学して間もないころ、学園の敷地に建つ100年も前に建てられた古びた洋館で、1人の少女と出会った。少女の名は九条由衣音という。明治期の動乱に政商として巨万の富を得て、その礎を築いた九条財閥の一人娘。周囲の住民から「九条邸」の異名をとるほどの豪邸に暮らす生粋のお嬢様である。皐月と由衣音の出会いこそが、「うたてめぐり」という物語の本当の始まりであったと言えるかもしれない。生粋のお嬢様であるにも関わらず、誰に対しても気さくでフレンドリーな性格の由衣音。突然意識が昏倒する原因不明の病を患っており、最近は学園を休みがちだ。偶然訪れた夜の学園で由衣音の隠された秘密を目撃してしまった皐月は、異人と人間、そして鍵姫を巡る戦いへと巻き込まれていくことになる。

最終章は、本編とはまったく異なる時代と世界観、登場人物たちによって綴られるもう一つの物語。どう書いてもネタバレになりそうなので、公式な説明を引用しておく。
「遥か遠い時代。少女との出会い。
たったひとつの約束。凍てついた心を溶かす優しい抱擁。
奪われた平穏。人々を襲う異形の魔獣。殺戮と慟哭。 運命に翻弄される若者たち。
 
叶わぬ恋の物語。
―――それは、悠久の旅の始まり。」
リドルのようなこの言葉がそれまでの3章とどう結びついてくるのか……簡潔に説明しろと言われれば困惑してしまうほどに入り組んだ物語の結末をぜひあなた自身の目で見届けてほしいと思う作品である。

うたてめぐり
ブランドFLAT
発売日2010年5月28日
価格9240円
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キーワード: 萌え

2010年04月30日 14時17分